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#星野源ください

夢の中へ連れていく

複雑な男心

 

「ちょっと、もうつぶれてるじゃないの」

「あ〜! やっと来たぁ! おっそい!」

 

目の前でジョッキ片手に怪しい呂律で、仕事が終わってから これでも急ぎ気味で来た俺を叱っているのは古い友人である。

 

「やってらんねぇよぉおお」

「ふは、声がでかいから」

 

どうやらゾッコンだった彼氏に振られたようで、今夜はヤケ酒だそうだ。こんな時にばかり俺は呼び出されている。

それはきっと俺が酒を飲まず、どれだけ酔っても手を出すこともなく安心安全に家まで送り届けてくれると確信しているからだと思う。

 

これまではそうしてきたが、俺だっていつ我慢の糸が切れるかわからないんだぞ! 男はみんな狼なのだと習わなかったのだろうか。それとも俺だから、と信じきってしまっているのだろうか。

 

「なんで、なんで」

 

酒を飲みながら、かと思えば机に突っ伏しながら涙をぼろぼろと零して「あんなに好きだったのに」だの「どこがいけなかったの」だの泣き言ばかり言っている。

 

「こらこら、俺の気持ちは?」

「なにいってるんだよぉ」

「んー、言わないけど」

 

どうせ今日のことも忘れるんでしょうが。・・・だったら言ってもいいのかしら。

 

今日も俺は手も出さず、チューすらせず家まで送り届けて自分の家に帰ってしまうんだろう。なんて情けない男なんだ。

 

「可愛いお顔が台無しですよ」

「いいもん、どうせ彼氏もいないもん」

 

本やドラマなら「俺がいるだろ」なんてセリフが出てくる場面だ。言う勇気は俺にはない。

なんて不毛な恋心なんだ。かれこれ何年もこの気持ちをしまい込んだまま。

 

まったく、俺はいつになったら勇気を振り絞れるのやら。

 

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嘘の日

 

四月一日。この四文字、わたぬきって読むこともできるんですよ。知ってた? 俺はこの間まで知らなかったです。

そんなことはどうでもよくて、今日は大人になってもわくわくしてしまうエイプリルフールだ。

 

子供の頃、それこそ嘘をつくよりも嘘をつかれて見事に騙され笑われる方が多かったが、それは中学生の頃までだった。高校生になると彼女にタチの悪い、いわゆる恋人同士がやるテンプレートのような「もう好きじゃなくなったから別れよう」なんて嘘をついて号泣されたことがある。あれ以来、その類の嘘はつけなくなった。

 

だが今、彼女から届いたメッセージがまさにそれなのである。

 

別れよう

 

その四文字のみが送られてきているせいで嘘なのか本当なのか曖昧なところだ。もしこれが本当だとして、「どうせエイプリルフールなんだろ♡」と送ってしまえばその後の「は? 何言ってんの?」という返しに凍りつくだけである。

 

さあ、どうする星野。彼女とは良好な関係だったはずだ。仕事が忙しいとはいえ、最後に会ったのは一昨日で、しかもその日は泊まって濃厚な夜を過ごしたじゃないか。ていうかまず別れたくない。

 

あ、これがあの時号泣したあの子の気持ちか。

 

なるほど、確かにタチが悪い。しかも文面というのもそれを増大させている。

 

画面をじっと見つめながらモヤモヤしていると、しびれを切らしたのか彼女から電話がかかってきた。

 

「もしもし源さん?」

「俺まだ別れたくないんだけどおお!」

 

勢いで情けない声が出てしまった。

 

「エイプリルフールに決まってるでしょ」

 

なんだ、やっぱりそうだったのか。寝る前のこんな夜中に本当に心臓に悪い。

変に考え込んでしまったのが悔しいので、今度のデートの日には恥ずかしいほど俺が好きだと言わせてやる、そうしよう。覚えてろよ!

 

じゃんけん

 

この間、朝のニュース番組でじゃんけんをするコーナーに出演したとき、ふと気付いてしまった。

 

俺は彼女にじゃんけんで勝ったことがない。

 

例えば 朝ごはんを作るのはどっちかを決めるとき、寒い日にお風呂を洗うのはどっちかを決めるとき、あとは残り一つになったアイスを食べるのはどっちかを決めるとき とか、何かを決めるとき必ずじゃんけんをする。

 

気持ちいい布団から出て朝ごはんを作らなければならないのは俺だし、寒い中お風呂を洗うのも俺。残り一つのアイスはいつも彼女が食べる。

 

「今日こそは勝ってやる」

 

心の声が思わず漏れ、呟いてしまったようで、近くにいたスタッフさんに「何か勝負でもしてるんですか?」と聞かれてしまった。

ええ少し、お風呂上がりのアイスをめぐってな!

 

 

 

「ただいま」

「おかえり源さん」

 

家に帰ると彼女がもう来ていた。今のところ半同棲状態である。

荷物を置いて、ラフな格好に着替えてソファーの上でテレビを見ている彼女の正面に立った。

めちゃくちゃ邪魔である。ものすごい怪訝な顔をされた。

 

「お嬢さん、今こそ勝負の時。冷凍庫に残されたアイスを巡って勝負じゃ!」

「あー、あれお昼に食べちゃった」

「はぇ!?」

「ごめんね」

 

 星野、戦意喪失であります。

 

「なんで食べちゃったのよ!」

「まあまあ」

 

年下彼女のお膝に顔をうずめ、そのままよしよししてもらったことで俺もアレも元気になりまして、今夜はそのままソファーで致しちゃいます。

 

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深夜のマドンナ

 

「250円になります。ちょうどお預かりします。レシートは、あっ、ありがとうございましたー」

 

深夜のコンビニアルバイトも慣れたものだ。高校も卒業したし、と 高い時給を目当てに始めたものの、最初は眠たくて立ったまま目を瞑ってフラフラしている時もあった。

 

そしてそのまま後ろに倒れたこともあった。とてつもなくかっこ悪いが、幸い店内には誰もいなかった。

 

深夜に来るお客さんはほとんどおじさんである。トラックの運転手だったり、工事現場帰りだったり、ヨレヨレのスーツを着て疲れきったサラリーマンだったり。

 

だからこそ他より記憶に残ってしまう、いつもチョコレートとなにかを買っていく彼女。

 

今日も来ている。ここ1ヶ月ほどはほとんど毎日来ているんじゃないだろうか。休みの日はどうかわからないが、それでも2時手前になると彼女は必ず現れる。

 

しかも可愛いのだ。

 

おじさんばかり見ているせいで女子という潤いを求めている俺の目には眩しすぎるほど可愛い。

 

「すいません、お願いします」

「あっ、すみません」

 

いつの間にか彼女がレジまで来ていた。

 

「合計で630円になります」

 

今日は雑誌買うんですねお嬢さん。ほう、ナチュラルな感じが好きなんですか。俺も結構好きです。

 

「おつりが70円ですね。いつもありがとうございます」

「えっ?」

「・・・あっ!」

 

しまった。いつも だなんて余計な一言を付け足してしまった。

 

「気付いてくれてたんですね」

「はい?」

「いえ。いつもお疲れさまです」

 

ああっ、笑顔が眩しすぎて直視できません! いけませんお客様!

 

「チョコレートよかったら食べてください。おやすみなさい!」

「は、あっありがとうございました〜?」

 

さっきレジを通したチョコレートを置いて、彼女は一目散に帰っていった。

 

女子から何かをもらったのはいつぶりだろうか。めちゃめちゃ嬉しいじゃないの。どうする俺、帰る?

 

とりあえずチョコレートをポケットに入れて、背筋を伸ばした。次のお客さんに向かって いつもより大きな声で「いらっしゃいませ!」とまるで居酒屋のような挨拶をしてしまったのは、俺らしいと思う。

 

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同級生3


星野くんと話をするようになったのは、クラス替えをして席が近くなってから。
お互い違うクラスにいたときは顔すら知らなかった。

 

彼は授業を真面目に受けてるようにも見えるけど、先生の話を聞いているのか聞いていないのかよくわからない。
ノートもとってるけど、ところどころに落書きが見えたりするし、時にはなぜか五線譜が書かれていることもある。なにか楽器が弾けたりするのかな。

 

お昼ご飯の時間は教室にいるのを見たことがない。四時間目が終わるとすぐにお弁当を持って出ていく。


他のクラスにしか友達がいないのかな。クラス内で浮いているわけではないけど、普段喋るからといってお弁当を一緒に食べるかといえばそうでもない場合が多いもんなあ。

 

あと放課後もすぐいなくなる。部活には入ってないみたいで、バイトをしているらしい。何のバイトをしてるんだろう、今度聞いてみようかな。


聞いてみたいことがたくさんあるなあ。

 

そんなことを思っていると授業でペアワークをする機会があって、私はそれを利用して質問をどんどんぶつけた。
なんでそんなこと知ってるの って不思議そうな顔されないといいな。

 

 

「星野くんってお昼ご飯のときいっつもどこ行ってるの?」

 

それ聞いちゃうんですか。言えないよ、教室内ぼっち飯が嫌すぎて保健室の先生と仲がいいから一緒に食べてますなんて言えないよ!

 

「他のクラスの友達と食べたりしてるの?」
「あっ、あぁうん。そう他のクラスの友達と!」
「そうだったんだ! いっぱい友達いるんだね星野くん!」

 

いねぇよ! いなくはないけどいっぱいはいねぇよ!
上手く誤魔化せたからいいにしよう。俺にたくさんの友達はいません。

 

「ついでに聞くんだけどさ、バイトってどこでしてるの?」
「ふは、どこで聞いたのその情報。バイトっていうか近所のおばあちゃんがやってる駄菓子屋さんたまに手伝ってるだけだよ」
「駄菓子屋さんやってるの!? 今度行ってもいい?」
「いいよ」
「ていうか今日行ってもいい?」
「きょ、今日!? いい、よ」

 

バイト先に女の子が来るなんて、ウメさんに、駄菓子屋店主のおばあちゃんにからかわれそうだ。


「源の女かいね」なんて言われでもしたら俺はそこで爆発してしまうだろう。とにかく残りの一時間の授業、しっかり心構えをしなくちゃいけない。

 

あぁもう、ドキドキする。

なつかしい味を

 

俺は今めちゃくちゃお腹が空いている。昼ご飯にも夜ご飯にも入らないこの時間、食うべきか食わぬべきか。

 

しかも食べたいものがピンポイントで決まっているのである。

最後に会ったのはいつか、連絡を取ったのはいつか。幼なじみのアイツの作る炒飯が無性に食べたい。

 

まだお互いの家の行き来が当たり前だった中学生の時、学校から帰って小腹が空いたときや休日のお昼によくご飯を作ってくれていた。

高校生になってからは行き来は少なくなったものの、お弁当を作ってくれたりしていた。

 

でも「彼女」ではなかったのよ。今思えば不思議だわ。

 

プロが作ったように美味い訳ではない。だが、馴染みの味というのは時に何にも変え難いものになる。

 

材料に何が入っているかはその時の彼女の気分、もしくは冷蔵庫の中身次第という大雑把な炒飯。チャーハンというより、文字通り炒め飯なのかもしれない。

 

久しぶりに連絡してみようかしら。どうしても食べたいのだ。今すぐじゃなくてもいい、ついでに会って顔を見て話をしたい。

 

そういえばいつか、あれは確か進路決定も近付いていたとき迷っている彼女に「俺のお嫁さんになるのどう?」なんて冗談めかしく言ったことがあった気がする。

 

「ばかじゃないの」と呆れながら笑って返されたのを思い出した。少し甘酸っぱい空気が流れた放課後の2人だけの教室。

 

彼氏はいるんだろうか。俺は今度アイツの飯を食べたら、今度こそ本当に胃袋をつかまれてプロポーズしてしまうかもしれない。

 

 

 

 

2/22

 

「ねえ知ってる? 今日2月22日でニャンニャンニャン、猫の日なんだよ」

「今夜は猫耳でもつけてくれんの?」

「する訳ないじゃん」

 

してくれないのかよ! てっきりサービスしてくれるのかと期待してしまいました。どうも、今夜も絶好調、星野です。

 

猫の日以外にもさ、語呂合わせで色んな日あるよね」

「いいニーハイの日とかイチゴの日とか?」

「そう。いっそ全部祝日になったらいいのになぁって中学生の時思ってた」

「あはは、ばかじゃないの。そういえばレアな日もあったんだよ」

 

2015年の1月5日は激レア イチゴパンツの日だったんだと言うとものすごく呆れられた。そりゃイチゴパンツに対してテンション上がるわよ。男の子だもんっ!

 

イチゴパンツは置いておいて、せっかくの猫の日だからちょっとくらいそれを味わいたい。だって今の俺には彼女がいる。恋人がいるんだ! 味わわなくてどうする!

 

「今日は猫の日です」

「それさっき私が言った」

 

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