#星野源ください

夢の中へ連れていく

パキッとアイス

 

暑い。なんでこう毎日毎日暑いんだ!

 

お風呂に入ってもすぐに汗をかくので寝る前にもう一度シャワーを浴びようかと思うくらいだ。浴びないけど。

 

「おげんさん」

 

風呂上がり、扇風機の前で口を開けて涼んでいる俺に彼女が真剣な眼差しで声をかけてきた。なんだ、何が始まるんだ。

その真剣さに思わず扇風機のスイッチを切って正座をした。なんだ、何が始まるんだ。

 

「実はですね」

「なんでしょう」

「冷蔵庫の中にアイスを見つけてしまいました!」

「うわー!」

 

「・・・えっ、それだけ?」

「私はそれがとても食べたいので食べてもいいですか」

 

確かに冷蔵庫の中には俺が買って帰ったパキッと割って二人で半分こできるアイスがある。

そんな真面目な顔で聞くことだろうか。そんなところが可愛いのが俺の彼女です。

 

「しょうがない。いいでしょう!」

「ありがとうございます! じゃあ源さんパキッとやる役は譲ってあげます!」

「ふは、なにそれ」

 

 アイスを半分こ だなんて学生の頃もやらなかったのに、大人になってからするとは思わなかった。

いつの間にか暑さも忘れて、お腹をこわすこともなく眠りにつけた。夏の暑さもアイスもたまにはいいですね。

 

結局 寝る時に布団をかけずクーラーはガンガンでお腹を出して寝てしまったので、朝イチでトイレに駆け込むことになったのはまた別の話だ。

ササイ

 

ゴミ箱にゴミが入らない。

 

最終的には自分で入れに行くことになる。投げても投げてもゴミ箱に弾き飛ばされたり 見当違いの方へ飛んでいったりして全く入らない。

 

よくわからないプライドが働く。飛んでいったゴミを取りに行って 同じ場所に戻って投げる。また入らない。

 

 

 

先日 彼女と喧嘩をした。些細なことだった。

テレビを見ている時に話しかけられた。どうしても曲作りが上手くいかなくてイライラしていた。嫌な言い方で、それも言わなくていいことを言った。

 

それから彼女が口を聞いてくれない。

 

自分の発言に気付いてバッと振り返って彼女の顔を見た。冷や汗が出た。その時の俺はただの最低な奴だった。近寄ったところで跳ね返された。彼女が部屋から出る。もう一度行ったが、目の前で寝室のドアを閉められた。近付けなかった。

 

よくわからないプライドが働く。俺もリビングのドアを閉めた。壁が二枚も出来てしまった。

 

何をしているんだ俺は。

 

 

 

喧嘩はまだ続いている。家にも来てくれていない。

晩ごはん代わりに食べた菓子パンの袋を小さく括ってゴミ箱に投げた。壁に当たって失敗したか、と ため息をついたが見事シュート成功。思わず吐いた息を吸い込んだ。

ため息をつくと幸せが逃げるって言うじゃない。

 

謝ろう。今なら話を聞いてくれる気がする。

 

スウェットをジーンズに履き替えて、家の扉を開ける。真夜中、迷惑を承知で家まで行こう。

遠くからより、自分から行く方が早い時だってあるのだ。

 

共倒れ

 

スパァン

 

風呂を出て半裸でアイスを食べて、蒸し暑いから といって冷房をつけて、ろくに布団もかけずに半袖半パンで寝たらこのザマザマス。

 

久しぶりの休日に舞い上がりすぎてしまった。しかも俺だけではない。

 

ベッドの上で寝癖もそのままにうずくまっている彼女は、先ほど おばあちゃんというよりはおじいちゃんの様な声で「実は星野さんが風呂に入っている間にもアイスを食べてて、昨晩いっょに食べたアイスは二本目だった」ことを自白した。なんてことだ。

 

普段お腹が痛くなるような子ではないのだが、さすがに冷房効果もあったのだろう。撃沈している。げきちんってひらがなで書くとちょっと卑猥じゃない? げきちん。

 

時計を見るとお昼過ぎ。起床が遅かったのもあるが、休みが半分終わろうとしている。

いつも掃除だとか片付けだとか何かしてしまうのだが、今日はもう何もしないでおこうと思う。そんな休日もたまにはいい。

 

お腹の痛さがだいぶ収まってきた彼女を連れてリビングにいって、ソファーでくっついてテレビを観よう。その前にご飯でも食べよう。

 

今日も蒸し暑いから冷房をつけて、肌寒くなったらくっついてしまえばいい。そういう雰囲気になることを期待しながらな!

 

一杯いかが

 

目が覚める。

外には街灯の灯りしか見えない。真っ暗だ。

 

今は何時か、とスマートフォンで確認する。めちゃくちゃ眩しい。目を細めながら見ると日付を越えていた。

夕方に帰ってきて布団もかけずにベッドに沈みこんだはずが、まだ肌寒い夜だから と薄手の毛布がかけられている。ありがとう彼女!

 

寝室の半開きの扉からは光が漏れている。まだ起きているのだろうか。

水を飲みに行くついでに確認しよう。

 

「おぉ、ほんとに起きてるとは」

「おはよう源さん」

「おはよ。ていうか早く寝なさいよ」

 

今日締切のレポートが終わらない、量が多すぎる とごにょごにょ言っている。

よし、彼ピッピ♡ が美味しいコーヒーを淹れてあげよう。自分のを作るついでだが。

 

ポットに水を入れて沸かす。少し暑くなるだろうか。

 

「そこのしかめっ面のお嬢さん、コーヒーはホットとアイスどっちがいい?」

「んー、氷みっつ」

 

それはただぬるいだけなのではないだろうか。

まあいい。猫舌な彼女には丁度いいのかもしれない。

 

お湯を注ぐと共にコーヒーのいい匂いが広がる。カフェインが入っていて眠気が覚めるというが、匂いに関しては安眠作用もありそうだ。

 

「はいどうぞ」

 

砂糖を少しだけ加えた赤いマグカップを彼女のパソコンの横に置く。

 

「いただきます」

 

飲んだ瞬間 ふわっとほころぶ顔が、俺はとても好きである。まるで気を抜いた小動物のようでとてもかわいい。

 

これからは、もっと頻繁に作るようにしようかしら。今度は美味しいアイスティーを探そうかな。

ぬくもり

 

「今日はまた 懐かしいの聴いてるね」

 

彼女は気が付くといつも俺の作った曲を聴いている。

本日の風呂上がりセレクトはSAKEROCKのアルバムらしい。ソファーに体育座りで小さくなって、ただただ聴いている彼女を見るのが、いつからか恒例となった。

 

とても楽しいとは言えない音楽制作の毎日があったことを思い出す。成長したんだなあ、俺も。

 

「おげんさん」

「なにかしら」

 

おげんさん という響きがどうやら気に入ったようで、あの放送日から そう呼ばれることが多くなった。

 

「私、今の源さんも昔の源さんも好きよ。どっちも愛せる自信があるわ」

 

何の恥じらいもなく、しっかりと目を見て言える彼女はすごい。

 

「俺の彼女さすが、最高だわ」

 

なんて誤魔化すように笑って、髪を乾かしにいくのを理由に そそくさとリビングから逃げた。

不意打ちだからか、日々の疲れもあるのか。

 

下を向いて、洗面台に置いた手元に涙が落ちる。

胸の奥が あたたかさでぎゅうっと締め付けられるような感覚があった。

 

「おげんさん、髪乾かしてあげようか」

 

とりあえず精神統一をはかろうと両手で顔を覆って深呼吸をくりかえしていると、楽しそうな彼女が顔を出した。うっすらと Emerald Music が聴こえる。なるほど、それはテンションも高まるでしょう。

 

「泣いてる?」

 

バレた。顔を覆ったままでも、後ろでクスクスと笑っているのが分かる。

 

「おまえが急にあんなこと言うからだろぉ」

「お嫌でしたら次から言いませんわよ」

「・・・次からもお願いします」

 

笑い声が大きくなった。俺の涙は止まっていた。

顔から手をのけて頬を拭うと、鏡越しに 今度は彼女が泣いているのが見えた。

 

「泣いてんの!?」

「好きすぎて泣けてきた」

「なにそれ」

 

今度は俺が笑った。

自分がめちゃくちゃ幸せ者であることを、今日のこの十分も経たない内に実感することになろうとは。

 

「ふふ、嘘だよ。ただの笑い泣き」

「はあ!?」

「いいから髪乾かそう! 風邪ひくぞ!」

 

強引に椅子に座らせられ、そのままドライヤーを当てられた。

 

おれしってるんだぜ。

 

さっきのは笑い泣きなんかじゃなかったこと。

体温と

 

「まだ起きてたの?」

 

日付を超えて家に帰った。彼女が眠そうな顔をしながらもソファーに座ってテレビを見ていた。

 

今にも寝てしまいそうな彼女からの返事はなく、とりあえず風呂とか着替えとかを済ませることにした。する前に座ってしまうと億劫になってしまうので気力だけで済ませ、寝室の扉を開けた。

 

彼女がベッドに腰掛けて窓の外を眺めていた。

 

「源さんの生活音を聞いてました」

「ふは、なにそれ」

「ちょうレア」

 

起きてると言っても頭は回ってないようだ。

なによりも、この時間まで寝ていないのは体に悪いだろう。早く寝なさい。

 

「明日も朝早いんでしょ」

 「うん。でも」

 

今日も一日話せなかったから、だから帰ってくるまで待っていた と、一緒に寝ようと言うのだ。可愛いじゃないか。

 

久しぶりに同じ時間に眠りにつく。

最近は俺の帰りが遅く、先に眠っているところに潜り込むことが多かった。朝は大体 彼女の方が先に起きていて、朝ごはんを作ってくれていたりする。

 

「久しぶりに腕枕でもしてあげよう」

 

一緒に寝られることがなんだか嬉しくなって、得意技「腕枕」を発動した。

距離がとても近くなる。いい匂いがする。シャンプーと柔軟剤と、それから これはきっと彼女独特の甘い匂い。

 

愛おしくなって抱きしめた。お互いに内を向いて、片方ずつ腕を回して足を絡めた。ああ、もうこのまま致してしまいたい。

 

もう少し早い時間に帰れていたら、俺は迷わず このままキスをして服を脱がせていただろう。

 

でも今日はいいのだ。このまま体温を感じて、それから幸せな朝を迎えよう。あと数時間経てば朝が来る。そこからまた時間が経てば夜が来るので、その時までお預けである。

プレゼントで約束しよう

 

今日は午後から休みだ。久しぶりに買い物に出かけようと思う。一人で。

 

彼女は仕事である。そもそも不定期で午後が休みになるような職はほぼないだろう。

だから俺にとってはとても都合のいい日だ。

 

今日は彼女の誕生日。一年が経つのはあっという間だ。

 

午後から休みと聞いていた俺は、今日までプレゼントを買わなかった。急な仕事が入らなくて本当によかった。

 

去年の誕生日は間に合わなかったのだ。

 

その日、買う物は決まっていたものの 帰りでいいか と朝のうちに買っておかなかったのが仇となった。仕事終わりに時計を見ると、営業時間はとっくに終わっていた。

ケーキはマネージャーさんに頼んでおいたので、結局それだけ持って帰ってプレゼントは次の日に渡した。

 

今回はそうはさせない。

 

ケーキだって自分で買って帰るし、プレゼントも間に合わせる。

ただ一つ不安なのは何を買うか決まっていないということだ。彼女の欲しいものがわからない。

 

あまり何かが欲しいとねだられたことがない。ご飯を奢る時に食べたいものを聞くことはあるが、アクセサリーやバッグなど そういった類のものを「買って♡」なんて言われたことがない。

 

困った。事前にリサーチしておくべきだった。

共通の友達はいない。相手の親御さんに聞けるはずもない。

 

・・・自分の両親に聞く?

いや! 今回は一人でできるもんチャレンジをするのだ! 誰かに頼ることなく、俺一人で!

 

自問自答を繰り返していると、いいアイデアが浮かんできた。そうだな、そろそろお互い いい歳だ。

 

 

 

「ただいま」

「おかえり。誕生日おめでとう」

「ふふ、ありがとう」

 

彼女が仕事から帰ってきた。

年度始めでなかなか忙しい時期。少し遅くなることも心配したが、定時で終われたらしく安心した。

 

「誕生日なんだから帰りなさいって先輩が声かけてくれてさ」

「あ、そうだったんだ。よかった」

「なんか準備してくれてるの?」

 

ふはは、驚くなよ。

 

「まあまあ、着替えておいでよ」

 

すでに嬉しそうな彼女の顔に、俺まで頬が緩んでくる。

 

今日は頑張ったのだ。

午後、オフなのを最大限に活用し、近所のスーパーに多少の力を借りたものの料理には力を入れたし、ケーキは彼女の好きなものにした。

お酒も、少し高いものを買った。俺は味もよくわからないので店員さんに選んでもらった。彼女がよく飲んでいるものを覚えていてよかった。

 

だが、本番はここからだ。

誕生日プレゼントには指輪を買った。

 

目の前の料理に目を輝かせ、「これ源さんが作ったの!?」なんて驚いている場合じゃないんだぜ、お嬢ちゃん。

 

あなたがケーキを食べ終わったら いよいよ俺の緊張はマックスで、片膝をついて、それから顔を上げて目を見て言うのです。

 

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