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#星野源ください

夢の中へ連れていく

あの期間

 

疲れている。俺ではなく、彼女が。

 

帰ってきた時には笑顔で「おかえり」を言ってくれるし、ご飯もきちんと美味しいのを作ってくれているが、時折表情が曇る。

 

「なんかあった?」

「なあに、突然。別になんもないよ」

 

なんもない なんてそんなはずがないじゃないか。

俺がなかなか家に帰って来ないから? 休みがなくて二人で遊びに行けてないから?

 

もしかしてこの生活にも不満だらけだったりするんだろうか。

同棲だって、恋人的触れ合いがなければ彼女のしていることは家政婦さんがやるようなこととなんら変わりのないことだ。

不満だって、さらにいえばストレスだって溜まっているのかもしれない。

 

俺あなたから別れ切り出されたらしばらく立ち直れないわよ。

 

「ちょっとこっちに来てください」

「源さんどうしたの」

 

気付いたら即行動。嫌なことが起きる前に対処できることはしておこう。

 

「最近元気ないみたいだけど、何かあるなら源さんに相談してごらんなさい」

「あー・・・」

 

「隠しきれなかったかあ」と彼女が呟く。やはり何かあるらしい。

 

「あのね源さん」

 

改まったようにして彼女が口を開く。いつまでもあなたの家政婦さんでいるのはつらいから別れてほしい なんて言われたらどうしよう。

 

「今おんなのこなの。生理中なの」

「えっ!」

「も〜、恥ずかしいんだから言わせないでよ」

「そっか、そういうことか。ふは」

 

彼氏は恋人のその周期を覚えておくべきなのかもしれない。

 

勝手な不安と心配に思わずわらってしまった。

とりあえず彼女に温まるものをあげることにしよう。

 

あーあ、しばらくセックスはお預けかあ!

 

 

 

 

甘える時間

 

作業に向かう俺の傍に彼女が寄ってきている。

ただ寄ってきているだけで 触れもせず話しかけもせず、視線さえこちらへは向けていない。

 

が、しかし、これは彼女なりの甘えたちゃんタイムの合図である。

「源さんお仕事忙しそう・・・でも今は構ってほしいの・・・♡」を暗に伝えてきているのだ。全国の恋人持ちの諸君、こういうことが分かってこそのパートナーだぞ♡

 

そんな彼女を甘やかしたいのは山々だが今すぐにという訳にはいかない。いいところまで作業が進んでいるのだ。

せっかくだから一気に終わらせてしまいたい。というより後回しにしてしまうとまた煮詰まってしまう。

 

ごめんな、ちょっと待ってな。

 

その言葉とともに、近くにあった彼女の頭をそっと撫でた。

 

 

 

 

 

今日はなかなか構ってくれないなあ と、ぼーっとテレビを見ていたら優しげな手が降りてきた。

 

ぽんぽん と頭を撫でてすぐに離れていったそれは、再びカタカタとキーボードを叩き始める。

まだかかるのかなあ。

 

彼の忙しさは落ち着くどころか増す一方で、私よりも彼の方が泣き言を言って甘えたいはずだ。

 

彼はいつも同じ言葉を繰り返す。

「好きなことをやっているだけ」

本当にそうなんだろう。作業に向かう横顔はいつも嬉々としている。

 

そんなことを考えながら じっと横顔を見ていると、ふと彼がこちらを見た。

 

しまった、思わず視線を逸らしてしまった。

 

「どうした? もしかして見惚れてた?」

 

少し微笑んで、彼が体ごと こちらを向く。

 

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一目惚れの片想い2-2

 

・・・いるじゃないか!!

 

完全に油断していた。レジに雑誌を持っていくまで全く気が付かなかった。

 

やっぱり噂は噂だったのだ と諦めて支払いをしようと前を向いたらいたのだ。彼女が。

 

「・・・星野くん?」

はえ!?

「え!? 星野くんだよね?」

 

ファーストコンタクトなのに変な声を出してしまった。俺の名前を知ってくれているなんて1ミリも思っていなかったんです。

 

俺の名前、っていうか俺のこと知ってるの?

「知ってるよ。講義よく一緒になるじゃない」

 

笑ってる。いつも見てるあの笑顔で。

 

「ほしのげん、でしょ?」

 

俺の名前が呼ばれる。いつも遠くで聞いているあの声で。

名字じゃない下の名前を呼ばれるって、やっぱときめくんですね。

 

「・・・ごめん、違った?」

違わない! 合ってます!

「ふふ、よかった。音楽好きなの?」

うん。

 

好きなんだ って、いつもならスッと口に出すはずの言葉も詰まってしまった。

彼女との初めての会話が弾んでいると思いたいが、向こうが会話を進めてくれていて俺がそれに答えているだけだ。

 

「ところで星野くんは私の名前知ってるの?」

知ってるよ。

 

彼女の名前を口にする時、声が震えてしまったのは言うまでもないだろう。

一目惚れの片想い2-1

 

二月ってまだまだ寒いですね。突然ですが俺は勇気を出して彼女のバイト先へ行く決意をしました。

 

話もしたことなければ目さえ合わせたことがないので認識すらされてないと思うんだ、俺。

・・・もしくは俺の視線に気付いていて、店に入って見つかった瞬間に「ストーカーが!」って通報されるか。

 

それはつらいな。

 

 今日は買いたい雑誌もあるので、彼女が働いていると噂の本屋へ足を運ぶのだ。

 

そもそもシフトが被っているかわからないし、今日は休みかもしれない。噂は嘘だった、なんてオチかもしれない。それはそれで笑える。

雑誌を買って帰ればいいだけだ。

 

そういえば今日はバレンタインじゃないか。彼女の恋人は彼女からチョコレートを貰ったりするんだろうか。「チョコよりも甘い君が食べたい」とかいう馬鹿みたいにキザなセリフを吐いて彼女を美味しく頂いちゃったりするんだろ。

うらやましいぞオイ! 俺もそういうことしたい!

 

まるで思春期の童貞のようなくだらない妄想をしていると本屋についた。

彼女はいるだろうか。いや、雑誌を買いに来たんだ俺は。

 

いたとしてもまあ、気付かれはしないだろう。

 

ちょっとしたご褒美2

 

バレンタインってそわそわするよね。

大人になった今でも女性の共演者さんやスタッフさんが横を通る時に、期待して少し胸が高鳴る。

 

だいたいは何もない。3人か4人に1人は「バレンタインなので・・・」と気恥ずかしそうにお菓子をくれる。

俺はその度に「ああ! ありがとうございます!」と、あたかも期待なんかしてなかったように可愛らしい包みを受け取る。

 

何より楽しみにしているのはケーキ屋さんに寄ることだった。

と言っても今日はお店が閉店する時間までは確実に仕事入っているので、どこかの合間を縫って向かわなければならない。

いつものように、ゆっくりとお話はできないか。

 

休憩時間が待ち遠しくて、いつもより時間が経つのが遅く感じた。やっと休憩に入れた昼過ぎ、俺は急いでケーキ屋さんへ向かった。

 

「いらっしゃませ。あ、星野さん! 来てくださったんですね!」

 

ああ、今日も笑顔が眩しいです。

 

「今日限定のバレンタインフェアです。チョコレートを使ったものは全部オススメですよ」

今日限定なんですね。来てよかった。

「まだお仕事中ですか?」

そうなんですよ。今日の仕事終わりの時間にはお店閉店しちゃってるので、早めに来ました。

「そんな忙しい中で・・・。わざわざ足を運んでいただき ありがとうございます」

いえ、毎日の楽しみなので。

 

ケーキよりもあなたの笑顔がですが。

あー! でもやっぱり期待しちゃってたよ、俺。

あなたからの個人的なチョコレート。

 

「はい、ではガトーショコラ1点で500円になります。フェア特典でココアクッキーお付けしときますね」

特典、いいですね。ありがとうございます。

「こちらこそ。いつもご贔屓にありがとうございます。またいらしてください!」

はい、また。

 

紙袋を渡されて、そのままいつものように外へ出る。期待していた分、胸の中に少し寂しい気持ちが残っている。

 

白い息を吐いて、マフラーに顔をうずめ足を進めてスタジオへ帰ろうとした まさにその時だった。

 

真後ろで扉が開いた。

 

「ほしのさん!」

ってぇ・・・。

「わー! ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

ふ、だいじょうぶ、大丈夫です。くふふ、どうしたんですか。

 

勢いよく開いたドアが俺の頭にごっつんこである。感傷に浸っていたのもあって つい笑ってしまった。

 

「ほんとにごめんなさい。・・・あの」

大丈夫ですから。おつり、とかちゃんと貰いましたよね? どうしたんです?

「これ、バレンタイン なんですけど」

 

そう言う彼女は目を逸らし、お店のものとは違う紙袋を持っている。

 

「今度お店で出す試作なので! よければ貰ってください! 感想待ってます! ありがとうございました!」

 

紙袋を押し付けて ものすごい早口で喋って店内に戻ってしまった。

 

 試作・・・?

 

にしても、にしても、だ。

貰えた。彼女から、個人的なバレンタインのお菓子が。

貰えた、貰えたぞ俺! 喜べ! 本命じゃないか! もちろん俺にとっての、だが。

 

早口で喋る彼女の頬は真っ赤で、なんなら耳まで染まっていた。紙袋を持つ手は細かく震えていた。

 

本当に試作品なのだろうか。

店員さんとしてくれたのか。それとも。

 

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ちょっとしたご褒美

 

最近駅から少し離れたところにあるケーキ屋さんに寄って、なにか一つ買って帰るのが日課になっている。

落ち着いた雰囲気で、喫茶店のようにもなっていて中で食べることもできるらしい。近くで仕事があれば合間に休憩しにきたいものだ。

 

1週間は通っているだろうか、店員さんが可愛いんです。3日目くらいには今日のおすすめを教えてくれるようになりました。常連への第一歩、達成です。

 

今日は何を買おうかしら。おすすめと何か、たまには二つ買って帰ったりしちゃおうかしら。

 

「いらっしゃませ! 星野さん、またいらしてくださったんですね。毎日ありがとうございます」

 

笑顔が今日も素敵ですね。こちらこそありがとうございます!

 

「今日のおすすめはザッハトルテです」

じゃあそれと、今日はもう一つ買って行きたいんです。

「どなたかとご一緒に・・・すみません、出過ぎた質問でしたね」

ふは。いえ、一人で食べるんですけど。

「甘いものお好きなんですね。ではこちらは・・・」

 

甘いものというより、むしろあなたを目当てに通っている気がします。

このかわいい店員さんは俺が星野源であることを知っている。もちろん初めは驚いて戸惑って、それこそレジでは打ち間違えもひどかったが、おすすめを教えてくれ出した3日目あたりからはもう慣れていた。

 

少しずつ世間話も増えてきていい感じである。恋人がいるかもしれないって? そんなことは後からでいいんだよ。

 

「はい、ではお二つで950円になります」

 

今日はザッハトルテと牛乳瓶のようなものに入ったプリンを買うことにした。

 

「星野さん14日も来られたりしますか」

・・・バレンタインの日?

「はい! チョコレートフェアをするので是非いらしてください」

そうなんですね。また買いに来ます。

「ふふ、いっぱい買ってください! 毎度ありがとうございました!」

 

ですよね。お店のフェアですよね。

個人的な感じのアレじゃあないですよね。

 

でもちょっとくらい期待しちゃうじゃないですか。スケジュールがいっぱいだった気がするけど、無理にでもこじ開けて来てやろう。

 

明日も買いに来るんだけどね。毎日通う、けれどバレンタインの日は、そうだなあ。

 

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喧嘩2

 

喧嘩してから3日目。気まずい雰囲気は続いたままで、正直なところ面倒だし早くいつもみたいに喋りたい。

 

お互いが距離を置いてるなら、どっちかが近付くしかないじゃない。

いつもはあなたから言われる「ごめんね」を俺から言ってみようかしら。

 

とはいえ、メールで言うか電話で言うか直接言うか、まずはそこから決めなくちゃいけない。

 

「星野さん、もうそろそろスタジオつきますよ」

ああ、もう着くんですか。

「考え事ですか。眉間にシワが寄ってますよ」

ちょっと仲直りの方法を考えてまして。

「いい大人が喧嘩ですか」

はは、ええまあ。

 

うるせぇー! 大人だって喧嘩しますー!

 

「星野さん、仲直りは頑張らないとできませんからね」

 

頑張らないとできない。確かにそうだ。いつも通りに過ごしていたって相手との距離は遠いままで、何かアクションを起こさないと変化だって起きない。

 

その頑張りをいつも彼女がしてくれていた。

不機嫌な俺に「ごめんね」の四文字を送信するのにどれだけ画面と格闘したんだろう。

 

楽屋に着いたら録音メッセージで送ろう。謝ってるスタンプもつけて、ごめんねって送ろう。

 

あなたはきっと「ばかじゃないの」って返事をくれるから。