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#星野源ください

夢の中へ連れていく

たまには

 

「聞いて。今日さ、俺イエパシだったじゃん」

 

コンサートを終えた彼から電話がかかってきたのはほんの三十分前。

いつものお座敷個室のある居酒屋で、お酒が飲めない彼はノンアルコールのビールを飲みながらぽつりぽつりと話し始めた。

 

友人である私はたまにこうして彼と話をしに居酒屋へ来る。撮影中に起こった面白い出来事だったり、愚痴だったり、新しく作る曲についてだったり、今回のように悩み事だったり。

 

珍しく少し寂しそうな声色に、私は静かに聞いているしかなかった。

 

「空席がさぁ、どうしても目に入っちゃって」

 

自嘲的な笑いを浮かべて、両膝を抱えて下を向く。ああ、落ち込んでいる。

きっと自分のコンサート会場に空きが出た事にではなく、来たくても来れなかったファンのために。

 

会場では今後の転売防止のためにも入場時の本人確認を厳しくしたらしく、それゆえの空席の多さだったらしい。

多いといっても目に見えてという程ではないだろうが、お客さん一人一人と目を合わせようとする彼だ。どうしても視界には入ってくるだろう。

 

「ショックなのはショックだよねえ」

「今回の分、次からはそういう人が減るって信じるしか、ですな。よし、飲もう星野!」

 

もっと気の利いた言葉をかけられればいいんだけど、どこまで踏み入っていいのかも分からないし、結局は誰にでもできるような慰めしかできない。

せっかく私を頼ってくれているのに。無力さを痛感する。

 

「ふは、お前いつも変わんないよね」

「私だってもっと上手いこと励ましたいんだよ〜?」

「いや、それはいいわ」

 

顔を上げ、自分の両頬に手を当てて少しだけ笑顔に戻った彼が私の目を見て言う。

 

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