#星野源ください

夢の中へ連れていく

ちょっとしたご褒美2

 

バレンタインってそわそわするよね。

大人になった今でも女性の共演者さんやスタッフさんが横を通る時に、期待して少し胸が高鳴る。

 

だいたいは何もない。3人か4人に1人は「バレンタインなので・・・」と気恥ずかしそうにお菓子をくれる。

俺はその度に「ああ! ありがとうございます!」と、あたかも期待なんかしてなかったように可愛らしい包みを受け取る。

 

何より楽しみにしているのはケーキ屋さんに寄ることだった。

と言っても今日はお店が閉店する時間までは確実に仕事入っているので、どこかの合間を縫って向かわなければならない。

いつものように、ゆっくりとお話はできないか。

 

休憩時間が待ち遠しくて、いつもより時間が経つのが遅く感じた。やっと休憩に入れた昼過ぎ、俺は急いでケーキ屋さんへ向かった。

 

「いらっしゃませ。あ、星野さん! 来てくださったんですね!」

 

ああ、今日も笑顔が眩しいです。

 

「今日限定のバレンタインフェアです。チョコレートを使ったものは全部オススメですよ」

今日限定なんですね。来てよかった。

「まだお仕事中ですか?」

そうなんですよ。今日の仕事終わりの時間にはお店閉店しちゃってるので、早めに来ました。

「そんな忙しい中で・・・。わざわざ足を運んでいただき ありがとうございます」

いえ、毎日の楽しみなので。

 

ケーキよりもあなたの笑顔がですが。

あー! でもやっぱり期待しちゃってたよ、俺。

あなたからの個人的なチョコレート。

 

「はい、ではガトーショコラ1点で500円になります。フェア特典でココアクッキーお付けしときますね」

特典、いいですね。ありがとうございます。

「こちらこそ。いつもご贔屓にありがとうございます。またいらしてください!」

はい、また。

 

紙袋を渡されて、そのままいつものように外へ出る。期待していた分、胸の中に少し寂しい気持ちが残っている。

 

白い息を吐いて、マフラーに顔をうずめ足を進めてスタジオへ帰ろうとした まさにその時だった。

 

真後ろで扉が開いた。

 

「ほしのさん!」

ってぇ・・・。

「わー! ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

ふ、だいじょうぶ、大丈夫です。くふふ、どうしたんですか。

 

勢いよく開いたドアが俺の頭にごっつんこである。感傷に浸っていたのもあって つい笑ってしまった。

 

「ほんとにごめんなさい。・・・あの」

大丈夫ですから。おつり、とかちゃんと貰いましたよね? どうしたんです?

「これ、バレンタイン なんですけど」

 

そう言う彼女は目を逸らし、お店のものとは違う紙袋を持っている。

 

「今度お店で出す試作なので! よければ貰ってください! 感想待ってます! ありがとうございました!」

 

紙袋を押し付けて ものすごい早口で喋って店内に戻ってしまった。

 

 試作・・・?

 

にしても、にしても、だ。

貰えた。彼女から、個人的なバレンタインのお菓子が。

貰えた、貰えたぞ俺! 喜べ! 本命じゃないか! もちろん俺にとっての、だが。

 

早口で喋る彼女の頬は真っ赤で、なんなら耳まで染まっていた。紙袋を持つ手は細かく震えていた。

 

本当に試作品なのだろうか。

店員さんとしてくれたのか。それとも。

 

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