#星野源ください

夢の中へ連れていく

ぬくもり

 

「今日はまた 懐かしいの聴いてるね」

 

彼女は気が付くといつも俺の作った曲を聴いている。

本日の風呂上がりセレクトはSAKEROCKのアルバムらしい。ソファーに体育座りで小さくなって、ただただ聴いている彼女を見るのが、いつからか恒例となった。

 

とても楽しいとは言えない音楽制作の毎日があったことを思い出す。成長したんだなあ、俺も。

 

「おげんさん」

「なにかしら」

 

おげんさん という響きがどうやら気に入ったようで、あの放送日から そう呼ばれることが多くなった。

 

「私、今の源さんも昔の源さんも好きよ。どっちも愛せる自信があるわ」

 

何の恥じらいもなく、しっかりと目を見て言える彼女はすごい。

 

「俺の彼女さすが、最高だわ」

 

なんて誤魔化すように笑って、髪を乾かしにいくのを理由に そそくさとリビングから逃げた。

不意打ちだからか、日々の疲れもあるのか。

 

下を向いて、洗面台に置いた手元に涙が落ちる。

胸の奥が あたたかさでぎゅうっと締め付けられるような感覚があった。

 

「おげんさん、髪乾かしてあげようか」

 

とりあえず精神統一をはかろうと両手で顔を覆って深呼吸をくりかえしていると、楽しそうな彼女が顔を出した。うっすらと Emerald Music が聴こえる。なるほど、それはテンションも高まるでしょう。

 

「泣いてる?」

 

バレた。顔を覆ったままでも、後ろでクスクスと笑っているのが分かる。

 

「おまえが急にあんなこと言うからだろぉ」

「お嫌でしたら次から言いませんわよ」

「・・・次からもお願いします」

 

笑い声が大きくなった。俺の涙は止まっていた。

顔から手をのけて頬を拭うと、鏡越しに 今度は彼女が泣いているのが見えた。

 

「泣いてんの!?」

「好きすぎて泣けてきた」

「なにそれ」

 

今度は俺が笑った。

自分がめちゃくちゃ幸せ者であることを、今日のこの十分も経たない内に実感することになろうとは。

 

「ふふ、嘘だよ。ただの笑い泣き」

「はあ!?」

「いいから髪乾かそう! 風邪ひくぞ!」

 

強引に椅子に座らせられ、そのままドライヤーを当てられた。

 

おれしってるんだぜ。

 

さっきのは笑い泣きなんかじゃなかったこと。

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